高橋一幸さん
南相馬市鹿島区、八沢地区にある民家の一室。ここで高橋さんは甲冑の補修や復元、製作の作業をしています。甲冑に関わる資料は勿論、様々な史料が並び、いくつもの甲冑が置かれた工房でお話を伺いました。
編:何歳からこの世界に?
高校を卒業してすぐに、相馬市の甲冑工房に弟子入りしました。半年程は住み込みでしたが、後は独立するまで通っていました。
編:平成元年に独立なさったとか。
一生これで食べていく決意はありました。以来、他に全く副業もせずにこの仕事をしています。
編:現代の日本では現役の甲冑師は10人程だそうですね。
その中でも甲冑師だけで食べていけているのはもっと少ない。高齢化も進み、後継者の不在が課題です。伝統行事を守るためには技術の伝承が必要ですが、なかなか厳しいです。相馬野馬追は昔の甲冑を着て行う全国でも珍しい伝統行事です。甲冑武者の多さでは断トツの規模では無いでしょうか。
野馬追の甲冑と同じくらい県内外からも補修等の申し込みがあり、遠くは海外のコレクターからも連絡が入ります。甲冑は繊細な手仕事の結晶で、美術工芸品として人気です。民間のコレクターから伊達藩主の甲冑の補修を依頼された事もあります。
編:改めて間近で見ると、補修はとても根気の要る作業ですね。
昔は分業制でしたが、全部を一人で作業しています。時代を経た甲冑を全体に馴染むように補修するので、小さな部材も一から作るなどして色調を合わせる等工夫しています。昔の甲冑師に比べれば自分はまだ足元にも及びません。灯りも満足に明るくなかった時代にこんなに繊細なものが作れるとは、いつも敬服しています。痛んでしまった甲冑が再び輝きを取り戻し未来へと継げればとの思いで努力しています。
胴の胸に付く栴檀板と鳩尾板。菊の花を模した金具も一つ一つ彫金で作る。花弁の幅も美しく均等に仕上げられている。
奥様の高橋のり子さんも同じ家で和服リメイクの洋服屋「noNon」を営み、敷地内の納屋を改装したカフェcafeNicoNico-doは娘の由布子さんが経営。夫婦、親子でものを作ることに携わっています。